原稿の締め切りが近づいている。
カフェ開業の顛末、いや その後・・・を記載しなければいけないのだろう――――
08年5月。おかげさまで開店一周年を迎えることが出来た。 一年間 持ったのです。
自主企画ではないが開店一周年を記念した協賛企画。三夜の「音語り」会も無事実施。
http://www.dan21.com/index.html
また、5月25日(日)には、この一年間 お客さんとしてCaféをご愛顧いただいた方々を中心に、お礼と感謝をこめた「開店一周年記念懇親会」を開催。 多くの方々に参集いただいた。
しかし、イベント以外の日常について、何か大げさにご報告するようなことはない。それはこれまで二回記載してきたことと そう変わりはないからだ。月平均来客者数も大きな変化はなく(来店者はゆっくり変貌しているが、増える気配はない)、後を継ぎたい というものの登場もない。
年齢からくるのか、片道電車三本の通勤、連夜の終電帰宅はシンドイなあ と思いながら、相変わらず一人で運営しております。 清掃、洗い物、買出し、ゴミ出し・・・清掃、洗い物、買出し、ゴミ出し・・・の繰り返し。
Café経営の重点項目は、まず第一に「清潔で居心地よく、安心安全な飲食材の提供」を旨としている。その次が「会話も可能なレベルでの極上サウンドの提供」(私が提案しているのが幅の広い<自由音楽>)で、次が「世代やジャンルを超えた交流と情報の受発信」。4番目が「音・映像の研究と発表」だ。
もちろんこれには問題が山積する。たとえば、食材の買い置きは 来客がなければ注文もなく 賞味期限となれば処分せざるをえない(もったいない)当然メニューも豊かにならない(悪循環)。珈琲だけでは成り立たない し、ワインも開栓してしまえば 日持ちはしない。・・・うーん だ。
やはり好循環させるには、イベントの企画と実施 か・・・。
そんななか ご報告せねばいけないことがございました。
昨年 秋、東京FM系 Music Birdという衛星デジタル放送のJazz番組からゲスト出演の依頼があり、ノーギャラだったがCaféの宣伝になるかとも思い出演することに。
半蔵門前のスタジオ収録が、ちょっとした事情から我がSound Caféで実況録音することに変更。二週分の番組は無事再収録され、On Airは思いのほか好評いただいた。
(このあたりは、前回の原稿で、すでに記載したことだが)
年が改まり、今年の一月。件のディレクターW嬢から “IZUMIさんを借り出す(駆り出す)レギュラー番組を企画してるんです・・・” と。“いや よしたほうがいいよ・・・” だいたい自由音楽やFree Jazzなんて企画が、民放局で通るはずがない。それに私の主義として “ゲスト時はさておき、ノーギャラでレギュラーはありえないからね。それと毎週半蔵門前の東京FMスタジオまでは行くのは無理だヨ” 休日が飛んでしまう。ワインや食材の買出しにも行けなくなる。・・・ “ええ、わかってます・・・” とディレクター。
ギャラ無しだと出ない、に加え 収録をCaféで(どうせなら良質のアナログ音源を発信したい!)の二つが条件。 まあ企画は流れるだろうと・・・ひと月ほど雑務で忘れかけていた。
いや その間 雑務などではなかったのです。 某音楽批評家の出版記念会に加え、リトアニアから来日した音楽プロデューサー:アンタナス・ギュスティスご夫妻の歓迎会などなどなど・・・慌しい日々が・・・。
2月下旬、今度は局のプロデューサー氏から、“企画が通りまして・・・ギャラは些少で申し訳ないんですが、半年間宜しくお願い致します” と。 アッ ちゃー・・・通っちゃったか、企画・・・。
まあ、早い話が、その後バタバタと準備に入り、番組タイトルが「Free Music Archive at Sound Cafe dzumi」 と決まった。 タイトルどおり 我がCaféで実況収録することに。 収録中お客さんがいらしても “いらっしゃいませ!” をやり、珈琲を入れるときは収録中断・・・ということです。当然 喋りはインプロヴィゼーション。
(この方式は、奇しくも前年度 ゲスト出演で 実証済み)
とはいえ 一応、前日までに選曲と下書きを作っておき・・・A4三枚程度。放送はそれを見ずに進めるという方式だ。
そうして、ディレクターW嬢を相手に「自由音楽の旅」が始まった。・・・「旅」のキイワードは<生命力>と<即興:インプロヴィゼーション>!
第一回の放送日が4月1日・・・エイプリルフールだから自由音楽って こんなに幅が広く、世界中に拡がっていることをアラウンド ザ ワールドで。テーマ曲は・・・これから長く続くわけだから・・・番組の特徴が顕れるようにと。・・・うーん、またARFI=想像的民族音楽探求協会のアラン・ジベールおじさんで行きますか。子供向けのCD付き絵本から「カニ・カヌ」・・・アラン・ジベールがトロンボーンを吹き、スキャットでメロディーを・・・水面(小川?)をパシャパシャ叩いて調子をとる曲・発想はホントに素晴らしい。
“皆、まだ宮廷音楽を喜んでいる・・・”と豪語するアラン・ジベールおじさん。一度は来日していただきたい・・・。
すぐ第二回目の収録。(一週間が早い!)アーカイヴと言っているわけだから、ここは太古のサウンド、われわれ人類が猿に近い状態、アフリカの現地録音オコラ「カメルーンのオペラ」を紹介したあと、2500年前に思いを馳せる「パニアグワ:古代ギリシアの音楽」。それと同時代の日本は「土取利行の<銅鐸>」。さらに1000年ほど下って中世のトルバドール(吟遊詩人)と紹介していく・・・。
第三回目、第四回目は、何とか早く現代に近づきたいということから、この領域にお詳しい星野秋男さんをゲストにクラッシックとジャズを混在させ、19世紀末から20世紀中盤までを「前衛音楽の誕生」と題し、一気に放送。
それにしても、毎週レギュラー番組を担うのは大変だ。
そうこうしているうちに・・・この番組の宣伝にもなると、プロデューサー&ディレクターの提案でJAZZ系の大きなサイト「JAZZ TOKYO」に、内容を掲載することになってしまった。
ただ私は、ディレクター嬢に “Wさん、いいですか・・・。放送というのは耳で聞くもの。語るほうも、一回きり聞かれるだけ、と思って喋っているからね。勿論、発言には責任持ってやってるけれど・・・いいですか、ネットというのは、まったく別なんだよ!たぶん100倍、いや1000倍、気をつけないとね。・・・今や放送などより、ネットのほうが何千倍視聴者がいるということ、さらに耳からの聞き言葉と、目から入る文字言葉はまったく別のもの。ようするに、とてつもなく重い・・・簡単なことではないんだよ。” と。
まあ、それでもFree Music や Free Jazzの代表作を通史的に聴いていく などというマスメディアの番組はこれまでなかったと思うし、放送を聴けない方々に内容が紹介されていくのも悪い話ではない か・・・。私がCaféを立ち上げた目的の一つが、20世紀の徒花で終わりかねない「自由音楽」「Free Music」をアーカイヴとしてもう一度捉えなおしておきたい、だった。
これは 誰かがやってくれれば、と思っていたから・・・サイトに上がるのも意義あること ではあるんだけれど。
いかんせん私に時間がない。内容を記載したり 周辺を検証したりしている時間がない。
“Wさん、そこのところ大丈夫?うまく書いてよ” で始まってしまった。
http://www.jazztokyo.com/mb/free_music/index.html
その後、数ヶ月経過。放送のほうは現在1968年前後の音源を紹介している。・・・その間 いろいろドラマもあり、細かな事情は省略するが、「JAZZ TOKYO」サイトのほうは、第五回目放送ぶんから、採用したアルバムに 私自身が<ひと言コメント>を記載することとなった。 (短ければ短いほど大変だ)
しかも、あえて批評的言及を避け、アルバムが録音、発表され、当時 国内で購入した 事情などを<私的な ひと言コメント>で記載することにした。
録音年月も記載し、ほぼ通史的に紹介していくので、纏まるとガイドとして役に立つだろう。
批評を避けた と言いながら、内心は <選択 が すでに批評性をおびている> とも思っている のです。
なにしろ最近の聴取傾向をみると、しかるべき方々の批評を鵜呑みにして聴いているフシも見受けられる。 ~さんがスゴイって言っている から(その逆も・・・)きっとスゴイとか。
批評家や紹介者の発言も 一つの受け取り方ではある が・・・まずは聴いてほしい。 余計な薀蓄を抜きに、素になって深く聴くこと・・・。
それが本来なのだが、さらに困ったことに、ネットで音をツマミ喰い出来てしまう時代だ。“あァ、それ知ってます・・・” と。・・・それは多くの場合 情報を知っているということでね。 あるいは、必要なら情報を調べる回路を知っている・・・っていうことでね。(せいぜいが検索エンジンで、だ)
だから、何を聴いているか? どう聴いているか? わからない。
・・・もっとも 諸先輩たちも、結局 「和声」「和音」の変容に力点をおいて享受している可能性もある。“えっIZUMIさん、和音を聴いているんじゃないの?” と言われそうだ。・・・いえいえ、それだけに囚われてはいないですよ。
おっと、閑話休題。
「<来るベき音楽>についてのメモ」などと もったいぶったタイトルをつけた本稿が、これじゃああまりに稚拙というものだ。 今回はこんなところでご容赦いただきたい。
最後に、数日前(8/30)念願が叶い、我がCaféに土取利行氏を招いた小さなイベントを実施することが出来た。
彼の重要度はすでに本稿Vol.2でも記載しておいたが、今回は数年ぶりの新著『壁画洞窟の音』(青土社)の刊行と、関連する新旧4作のアルバムが 最新のマスタリングでCD化 財団法人:日本伝統文化振興財団から発売された。それを記念しての「サウンド レクチャー&トーク」である。
http://homepage2.nifty.com/w-perc/
当日はあいにくの天候であったが、熱心な参加者で狭い会場が満席。 雷鳴の挨拶でレクチャーが開始された!
今回の新著をお話の土台に、洞窟からFree Jazzまで、またピーター・ブルックの芝居で音楽を造っていく時の裏話など、書籍では伺えない貴重なお話の連続であった。
後半の懇親会は(懇親会だけ参加の駆けつけ組みも加わって)私が描いていた年齢やジャンルを超えた交流の場が出現していた。時間は当然延長となり、最後は若者7~8人が土取氏をグルッと取り囲み 熱心な質疑応答がなかなか終わらなかった。
そして 実は、この話におまけがあるのです―――
Free Musicフアンも多く参集した今回のイベントは、土取氏のはからいで、氏が所有する秘蔵<お宝?>カセットテープをお聴きいただく、という サプライズが準備されていた。 デレク・ベイリーとの共演テープ(イタリアでのカンパニー)やE.E.U.まで、驚愕の音源ばかりだ。
イベント開始前の午後3時半。テスト再生ではカセットなのに ものすごく良い音でプレイバック出来ていた。
“・・・このベースはマルティン・アルテナ・・・このチェロがトリスタンで・・・” と土取氏。“あとは本番で聴こう!これは誰か?とクイズにしようかな?” などと、いい雰囲気。
そして、レクチャー後半。
いざ本番・・・“じゃあ、IZUMIさん再生して下さい”
はい・・・・・・えっ!! 何ッ? なっ なんとテープが回らない!
早送り、巻き戻しが出来るのに! プレイ出来ないのだ。
とんでもない珍事が起きてしまった。
前夜、雷雨の中 自宅から運搬したカセットの名機NakamichiのDRAGON。
ああ、どうしたことか、こんな時に限って・・・何度やってもダメ。
土取氏は “うーん、間章の霊が降りてきたか・・・” と。
私は来場者に平謝りするしかなかった。
(翌日、別のテープだが、ちゃんと再生できるのです。)
いや、恐ろしい。
雷雨だったとはいえ・・・かつて 録音技師時代もあった私としたことが・・・過去にこんなことは起ったことがない。原因がわからないのだ。
いや、2時間前のテストでは再生出来ていたのに。。。
何か、その時だけ見えない「力」が作用したのだろうか・・・。
わからないことが多いですよ、この世界。
http://d.hatena.ne.jp/tsuchino-oto/
「懇親会」に入り、近隣の参加者がいったんご自宅に戻りウオークマンカセットを持参され、それのアウトプットをオーディオ装置へ繋ぎ、ようやく短い時間だったが再生することが出来た。(溜飲を下げたのはいうまでもない。Ayakoさんありがとう。)
それにしても・・・これは申し訳なかった。必ず別の機会を設けてリベンジします。
(特にレクチャーだけで帰られた数人の方々には・・・)
土取利行氏秘蔵テープを聴く会・・・が この先の宿題となった。
‘08.Sep.5 H.IZUMI |