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「来るべき音楽」についてのメモVol.2

 

前回原稿を書いていた頃、友人とのランチで“今度 「きたるべきおんがくについて」 っていうタイトルでメモを書くことにしたよ”と話すと、すかさず “ IZUMIさん、コールマンですね…” と切り返された。おっと、オーネット・コールマンのことは忘れていた。たしかにオーネットには1959年、それまでのコード進行にのっとって演奏するJAZZをやめた 『The Shape of Jazz to Come』 という革新的アルバムがある。邦題が 『ジャズ 来るべきもの』 だった。
しかし私が想起していたのは、この春読んでいたデリダの翻訳 『パピエ・マシン』 冒頭の章<来るべき書物>のほうで、それは勿論モーリス・ブランショの、これも1959年に発行された同名の書籍を再解読する深い洞察の書なのだが…。(2005年2月ちくま学芸文庫 筑摩書房刊)

ブランショの 『来るべき書物』 という文章の最後の段落は 「おそらくの高み」 と題されている。そしてそれは 「偶然も、作品も、思想も、おそらくという高み以外のところでは、姿を消している」 という文で終わる。
今、書店で再刊の 『文学空間』 は手に入るが 『来るべき書物』 は復刻されていないようだ。チャンスがあれば、是非あの黒い箱に入った翻訳書を見つけてほしい。(粟津則雄訳1968年 現代思潮社刊)ただ日本では 「ブランショはオケラ」 とか言う批評家をはじめ、ブランショ…いやその愛読者に対し批判的な先達が多いことも留意しておきたい。

そして“コールマンですね…”と言ってくれた友人には感謝。昨年亡くなったジャック・デリダはコールマンと共演したことがある。たぶん哲学者でJAZZミュージシャンと同じステージに立ったのはデリダだけだろう。97年7月1日Parisラ・ヴィレットのフェスティヴァル会場。ステージでは怒涛のなか終わりまで読むことがままならなかったテクストは、翌98年 「ユリイカ」 11月号に全文が紹介された。タイトルは椎名亮輔氏の訳で 『弾け――名前(を)[遊べ――名前で]』 。そこでは後半、アルトーをも引きながら最後 即興することの欲求を 「値段ノナイ出来事ト呼ビタイ」 へ至る。

さて、前置きが長くなった。もう一度前回に戻ってメモを加えたい。
前回は人体の聴覚に関して記載した。音楽の話の前に 「聴く、聴こえる」 とはどういうことか、そして 「聴いて感動する」 とは脳/身体にとってどういうことか、と。
今回は人体の聴覚器官の歴史についておさらいをする。数十億年の生命編纂史に思いを馳せ、哺乳類、爬虫類、両生類、魚類とさかのぼってみる。ここでは素早く三木成夫(みき しげお)先生を指南役で登場させたい。このサイトを読んでいる方の中には芸大で直接教わった方も多いと思われ、またか、となるのでしょうが…。

内臓波動。食と性と宇宙リズム。大和民族の象徴思考。声と言葉、響きと化した内臓表情。脊椎動物の五億年の歴史。など、示唆的な提言が続く。
「受胎した胎児の4週目から5週目の一週間に起こる、あの古生代末に1億年を賭けた〈上陸〉の形象再現…胎児はみずからのからだを古代魚のおもかげから爬虫類のおもかげに、さらに原始哺乳類のそれに刻々と造り変えていく…」 ( 『内臓のはたらきと子供のこころ』 1982年 築地書館刊)ヒトは生まれると最初サメのようにエラが出来、5週目くらいでそれが肺に変化する…わたしたち脊椎動物は、元はといえば長い間 「魚」 だったのだ。身体に埋め込まれているであろう魚であった記憶。

三木成夫の著作は多くないが是非一読をお奨めする。その三木成夫が青年の頃、習っていたヴァイオリンを手放せず、医学へ進むか、音楽へ進むか、長い間悩んだそうだ。さらに先生が香川県出身と聞いて同郷のパーカッショニスト土取利行を思い出す。後に再登場すると思うがピーター・ブルックの音楽を長く担当し、現在も多方面で活躍中。土取は、これらのことがわかっている音楽家のひとりだろう。(著作もあり 『縄文の音』 他)

土取利行の音楽世界
http://homepage2.nifty.com/w-perc/

で、魚。  魚はわれわれのように体の外に開いている外耳はない。中耳もなくて、あるのは内耳と側線だ。子供の頃、焼き魚を食べていると 母親に“そのミミのところもちゃんと食べてね・・・”って言われていた。そうあの横筋の赤身のところだ。母はそこが聴覚器官と判っていたんだろうか?
魚の内耳には平衡感覚を保つ 「耳石」 があり、その石をよく観察すると年輪がわかるそうだ。一日一本刻まれる日周輪というものまで観測される。新説ではその耳石(鳥にもある)に磁性体があり地球の地磁気を感知して帰巣のナビゲーター役をはたしているという。

人力検索「はてな」 魚はどうやって音を認識するのですか?
http://www.hatena.ne.jp/1090469060

そういえばわれわれの内耳に平衡感覚をつかさどる三半規管があるのも、元をたどれば魚の内耳と側線から来ているのだろう。ちなみに、ヒトは内耳に炭酸カルシウムで出来た 「平衡石」 というものを持っている。ただ石というより砂に近いようだが。・・・そして平衡の衡の字の真ん中に 「魚」 が入っている。(ちょっと珍説か)
では、魚の側線にあたる器官はその後の進化で人間のどこに埋もれているのだろう。
さらに、 「聴く、聴こえる」 ということと、平衡感覚、バランス感覚の関係はどうなっているのだろう?

“ブラジルにヴァレンシアという言葉があるんだが、あれは英語でいうスイングの意味に近い。英語のバランスと同義でね。スイングする=ポジティヴ・ヴァイブレーションすることが大事…”と教えてくれたのはドン・チェリーだった。先のオーネット・コールマンのもとで育ち、ミュージシャンではいち早くワールドミュージックを体現、私たちにそのスピリットを伝えてくれた。名作 『永遠のリズム』 (独1968年MPS盤。71年にはポーランドの作曲家ペンデレツキーとの共演もある)は是非聴きなおしておきたい。

DON CHERRY: ETERNAL RHYTHM
http://sudo.3.pro.tok2.com/Quest/cards/D/DonCherry/EternalRhythm_x.html

スイングとか・・・今だとグルーヴか。これらは内耳の三半規管と身体に隠れている側線!も関係しているのかも知れない。あるいは 「ノリ」 とかね。さらには 「タメ」 なんかもそうかな。タテノリもあればヨコノリもある。憑依=のりうつるのノリもある。身体と魂を揺さぶるヴァイブレーションは、このあたりにも起因しているのだろう。いずれにせよ問題は 「リズム」 だ。

音/音楽を記述することの困難は、前回の終わりに 高橋悠治のエピグラフで代表させた。
音楽は言語などの登場よりはるかに前、そう、およそ3万年前には叩いて音を出す楽器の原型のようなものが出現し、祈祷や呪術に類する行為が行われていたであろうことが想像される。(仏南西部にはラスコー、キュサック、クーニャックなど数多くの洞窟が発見され、そこの壁画に描かれている。 先ほどの土取利行がその洞窟を尋ねたドキュメントがNHKで放送されたことがある。)
誕生があり、死がある。その生きざまのほとんどを本能的に種の存続のために費やしたであろう。 誕生の叫びと死の慟哭。超自然に対する畏怖の念。動物や鳥との交感。擬態や擬声語。類を呼び合う符丁。そこに喜怒哀楽があり。・・・そんななか、子を産んだ母は自らの波動を、しばし眠りにつく赤子のため、子守唄のようなもので伝えたであろうか。

 

今は秋。 義父の一周忌で帰省した北海道旭川郊外。丘の外れにある一軒のカフェ 「里山房」 。写真家がスタジオにしていたという不思議な建物のテラス。足早に近づく冬の気配…そこに聴き覚えのあるソプラノが流れてきた。これは何だったか?  必死に記憶の回路を呼び覚まし・・・そうだ 「Bailero」 。 そこで歌っていたのはサラ・ブライトマンだったが、私にとっては我が青春のソニー・シャーロック! 妻リンダが歌い、シャーロックがギターで激しくオブリガート。伴奏はミルフォード高速グレイヴス。ゴリゴリ刻むノリス・ジョーンズにデイヴ・バレルのアルペジオ…その音が聴こえてならなかった。
聴きながら遠くを見やると、暮れなずむ晩秋の丘陵地に、どこまでも黄金色の大地が広がっているのが見える。
音の記憶って凄いね。
ブライトマンに呼び出されたとはいえ、記憶の激しい音のほうが、何度も身体を震わしていた。

本当に凄いミュージシャンは伴奏でもスゴイのだ。ジョニ・ミッチェルを唄伴するジャコはスゴイ。ここで伴奏するミルフォードもスゴイ。自らアルバムにBest Bandとクレジットし、すべてが黒い 『Black Woman』 が録音されたのが1969年だったか。 「バイレロ」 はフランス中部オーヴェルニュ地方の古い羊飼いの唄。ラディカル Blues Manシャーロックはなぜその頃この曲に目をつけB面の1曲目に入れたのか、は謎だ。

SONNY SHARROCK DISCOGRAPHY
http://www.geocities.com/SunsetStrip/Venue/4306/sharrock/lps.html

「池の月」No.7<オーヴェルニュの歌>
http://www.asahi-net.or.jp/~vc9n-fkhr/ikenotsuki-folder/ike7.html

オーヴェルニュの話ではアンドレ・リクロやリヨンARFI(想像的民族音楽探求協会)のアラン・ジベール。シャーロックの話では若手のノエル・アクショテまで紹介しておきたかったが、今回は行数が尽きた。

「Winter & Winter GmbH」ノエル・アクショテ
http://www.winterandwinter.com/index.php?id=25

さあ、来週はバルカンの寒村からやってくるファンファーレ・チォカリーアだ。迎え撃つ 「渋さ知らズ」 とどんな交雑音楽がうまれるだろうか。

(財)埼玉県芸術文化振興財団 公式HP
「彩の国ワールド・ミュージック・フェス ~ジプシーの季節~ ファンファーレ・チォカリーアVS渋さ知らズ」
http://www.saf.or.jp/performance/geijyutu/05_17.html

p.s. 京都芸術センター発行の冊子 『diatxt.』 最新16号は、特集 「音を聴く/音をつくる」 です。御参考に。

(’05.Oct.01.H.IZUMI)



著者プロフィール: 泉 秀樹(いずみ ひでき)

 

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