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[マンハッタンの冬]

 デザインって、何? ひょっとして、日本の美意識といってみようか。
 生活芸術やら、日常で使える工芸やら、いろいろ。もっと簡単に、四季折々、草木花々を愛でて、季節の美味を味わうこと。そんな当たりまえが、やっと、グローバルに理解されたのが、昨今周知の日本ブームだ。
 マンハッタンも変わったな。手前のことしか頭にない、アメリカ式、冷血個人主義の牙城のような、スピード都市ニューヨークで、そう思った。
 美大の教員になって、4度目のニューヨーク遠足。入試が終わって、2月中に出発すれば、往復チケットとホテル4泊で10万円を切る。隔世の感ありだが、年々学生が増えて、今年は67人。これくらいの数でないと、マジソン街を旗立ててお登りさんしても、つまらない。
 路面から立ちこめる湯気に、かち栗の匂いがまじる。クラクションが、摩天楼をこだまする。マンハッタンは、これでなくちゃ。刺すような冷気も、気にならない。

[アートが市民を巻き込む]

 ちょっと前に吹雪で積もった雪のセントラル・パークを、メトロポリタン美術館の屋上から眺める。
 クリストの黄色のゲートが、遠くに、点景のように散らばる。
 美術館の修復家、山崎さんいわく、市長とクリストが、エジプト神殿のホール、公園に開かれたあのガラス張りの部屋で、記者会見したそうだ。たしかに、9.11テロ以来、明るい話題のないニューヨークにしてみれば、プロジェクトは市をあげての観光事業でもある。
 カフェや職場で、誰もがゲートを話題にする。良くても、悪くても、話に出る。観光客が、やってくる。ゲート最終日のメトロポリタンの土曜は、ざっとみて、一日3万人ぐらいは入ってたんじゃなかろうか。まわりのカフェやレストランは、この土日、どこも一席も空きがない。
 アートや美術館が、観光資源になる。やはりこれは、すごいもんですよ。Hさんが唱えるように、なんで日本も、皇居のなかに、国立国宝美術館、常時国宝を百点展示でござい、をやらないのかね。馬鹿な話だ。

[公園に咲いた、冬の花]

 去年は、チャイナ・タウンに、クリストとジャンヌ・クロードのアトリエ兼自宅を訪ねた。ゲートの準備に忙しくて、自分の個展すら見に行けない、とこぼしていた。それでも、1時間以上、床に座った70人の学生相手にレクチャーしてくれて、さあ質問しろ、質問しろ、と彼らを攻めたてた。
 印象深かったのは、包むことだけに、こだわってはいない、ということ。むしろ、布や切地の、ドレープというか、襞の感じが好きなのだといって、チマブエや、ギリシャ彫刻の画集を片手に説明してくれた。
 へえ、そうなんだ。自分だけの、ほんのささやかな、こだわりというか、オブセッションのために、あれほど、お金も人も、時間もかかった、大プロジェクトを組む。
 さすが、ホンモノの芸術家だと、恐れ入った。誰のためでもない、自分が見たいから、やっている。これが、彼の口癖。社会彫刻とか、パブリック・アートとか、小賢しいことはいわないんだよ。すっごく、きれいだろ、なッ。それで、終わりだ。何より彼らは、刹那好き、「もののあはれ」がわかるのだ。
 サイン会で飛び回っているらしく、今回は会えなかったが、今度会ったら聞いてみようと思う。
 ゲートは、とっても日本的で、きれいだったよ。なんだか、生け花みたいだったから。公園いっぱいに冬の花を咲かせて、人を楽しませる。これが茶会じゃなくて、いったい何なんだろうな。
 中川幸夫先生を、連れて来たかった。


 

著者プロフィール:新見 隆(にいみ りゅう)

 

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